「ロシア人は仕様以上のことを解決しようとする。」
「問題は何ですか、問題がわかれば解決方法を見つけましょう。」という。
「ほとんどの米国の会社は、彼らが何を探しているのかを知らないので、彼らが定義できないものを認識するのは難しいです。多くの会社はまだ、何が必要かを理解していません。彼らは仕事探しをしているのです。」
(モスクワのルスソフト(協会)会長、マカロフ氏の言葉)
エンジニアとして、こう言いたくなる気持ちはよくわかる。
多くの一般企業は情報技術専門ではないから、コンピュータを使って何が出来るかを知らないし、マネージメントやマーケティングの専門知識をもたずに暗中模索で営業を続けている。
そこに対して、情報技術やマーケティングの専門知識をもった技術者が、優越感をもって何かアドバイスできる、と考えたくなるのもうなずける。
世の中には確かに、マーケティング手法、経営手法、ORなど、ある手法に基づいて分析すれば、自然に問題が見え、解決方法がわかるものもある。
分析なしに成りあがり的に発展し停滞を迎えた企業なら、分析によって問題を明確化し対策をとれば、劇的な効果が上げられるかもしれない。
そのような仕事を請け負う、ビジネスコンサルティングという職種もあるし、
日本で業務システム開発をする場合は、現行業務分析や要件分析が開発の中に組み込まれていて、そこで業務の最適化が図られる。
しかし市場というものは、情報技術やマーケティング、マネージメントの知識や技術があればいかようにもコントロールできるほど単純なものではない。
そのような手法を駆使したにもかかわらず、市場競争の中で苦戦している企業がたくさんある。
また、理屈でわかっていても、対策をとれない場合も多い。
そのような解決の難しい問題を、ロシアへの数ヶ月のアウトソーシングで解決できるはずがない。
市場経済に移行した後、ロシアのソフト開発企業は、ロシアの民間企業の業務システム開発をしないで、海外企業向けの受託開発を主に請け負ってきた。
その場合に受ける仕事は、ツール開発、基本システム開発、パッケージ製品開発など、現行業務の理解を必要としないものが多かった。
「業務系の開発」という場合でも、ゼロからの新規開発で、マーケティングやマネージメントの知識、技法を使って現行業務を最適化するだけで効果が得られるようなものが多かった(もちろん、手作業やExcelベースの仕事をシステム化、自動化することによって、大きな効果が得られる)。
ロシア企業の成功事例を眺めると、どうしても「簡単な仕事をやっているなぁ」という感を否めない。
そして、それらを成功させていることで、天狗になってしまっているのだ。
簡単な仕事、とは
・仕様が明確または具体的仕様がなくて開発者に「おまかせ」
・開発期間が十分長い、または開発者のいいなりになる顧客
・開発予算が十分多い、または開発者のいいなりになる顧客
難しい仕事、とは
・仕様が不明確、変更がある
・問題の所在がわからない
・開発期間が短い
・開発予算が少ない
ロシア人自身は、「難しい仕事が得意だ」という。
彼らの言う「難しい仕事」とは、最先端技術、数学や物理、工学の応用、解決不能問題など。
ロシア人がそればかりにこだわる「プログラムの機能、性能、品質が良いかどうか」、ということは、日本人が考えるプロジェクトの品質とは相関しない。
なぜなら、プロジェクトの目的は、期間、コスト、成果物の品質の三者のバランスをとって顧客目的を達成することであり、
期間、コストを最優先するかわり、プログラム品質を下げる、という判断も往々にして行われるからだ。
(ロシア人の考えは逆で、品質を高めるために、期間と予算を増やすべきだ、となる)
市場競争を勝ち抜く上で速効性があるのは、プログラム品質よりも期間、コストであることが多い。
市場投入タイミングを外したら、その後でいかに優れたプログラムを完成させようと、利益にはつながらない。
世界最高のものを作るためにエンドレスに開発を続けることも出来ない。
ソ連体制下では、教育、科学、あらゆる開発事業において、期間と予算の制約を受けずに、徹底的に課題を追求できる、という習慣があったのではないだろうか。
ほとんど不真面目に働く人々の中で、一部の優秀で勤勉で意欲のある人たちが、期間や予算に制約されずに理想的なものを開発しようとした、その結果が、ソ連時代に現れた世界的な科学・工学分野の成果に現れているのではないか。
そして今、世界に通用する物を作ろう、とするにいたり、ロシア人技術者は、期間と予算の制約を受け付けない、という習慣はそのままに、ただ世界最高品質を徹底的に追求する、という姿勢だけを特化させているのではないだろうか。
技術力が高い人のほうが、技術力のない人の何倍も早く仕事ができる、という意味では、工期が短くなる。同じ内容ならば、インド人や中国人よりも、ロシア人のほうが早くできることもある。
しかし、実現不可能な工期、予算を可能にするために品質を犠牲にする、という考えをロシア人は理解できない。
日本開発企業が3ヶ月で開発できそうな量の仕事に、ロシア人が6ヶ月から1年もの見積を出すときがある。
それは「仕事が遅い」というのではなく、日本人の予想とは全く違うものを開発しようとしているのだ。日本人には予想もできない「世界レベルの高品質のもの」を。
ロシア人は、それを作るにはそれだけの時間が絶対必要だ、短時間低予算では絶対できない、と言い張る。
お互いに、相手が作ろうとしているものをイメージできないまま、交渉が決裂する・・ということも、私は何度か経験してきた。
必要なリソースがない中で、普通以上の成果をあげなければならない場合は、教科書どおりの仕事では間に合わない。
アウトソーシングでは、見積段階で開発者に「不可能」と判断されれば開発は行われない。
しかし多くの企業が、「不可能を可能」とする別の開発者を探し出し、なければ自力で開発するなどして、不可能を可能にすべく必死の努力をしているものだ。
ロシアの開発企業が、海外ではなく、地元の企業の業務システム開発を請負い、その中で、
・プロジェクトチーム編成がまだなのに、2週間後に本社幹部の前でデモを見せなきゃならない
・何を作るか決まっていないが、予算の関係で3月末までに納品しなきゃならない
というような課題をいくつもくぐり抜けていけば、
品質、工期、予算のバランスを取って顧客満足を勝ち取る、
という思想が理解できるようになるのかもしれない。
それには、さて、20年、30年はかかるだろうか。
当分の間は、ツール開発、基本システム開発、パッケージ製品開発でロシア人材を活用するにとどまるだろうか。
最近のコメント